赤ちゃん、作ろ?
「もう泣かせない」
浅陽 雛。どこにいるかな〜?
あ、いた。
俺はそう言って笑う男、大河の友。
そしてこの計画の首謀者だ。
「…颯。お前こっちくるな。」
なんでだよ、
「好きって言いたかったの!ずっと、言いたかった……。」
「……。」
マジか。俺の初恋、雛は長身の怪しい男に告白をしていた。
「ありがとうございます」
しかし聞き捨てならない言葉を聞いて俺は我に帰る。でもこれはきっと、
「気持ちは嬉しいのですが、先生は」
先生?ココは立花駅だぞ。先生は生徒とこんなところで会うのか?
恐らく断られるのがテイ、だと想っていた俺は不思議に思う。
「先生は病院に戻らないといけないんです。」
「でも……。」
病院に?あ、この人医者か。みるからに清潔感のない医者だな。ウケる。俺が心を込めてここにいる宿敵をなじっていると。
「先生は赤ちゃんがいます。」
「くそー、なんでー?」
帰り道。隣に知り合いが1人増えた。
浅陽 雛。19歳来月成人。
「赤ちゃん、欲しいの。」
打算がない真っ直ぐな瞳は俺の頬を紅潮させるのに足りた。
「赤ちゃん作る前提で私と付き合って?」
胸が高鳴った。
本当は泣き出してもおかしくないのに。
「赤ちゃん、欲しいの。」
笑うなよ。
「赤ちゃん作る前提で私と付き合って?」
お願いだから。
「初めてのキス」
「好きって言いたかったの。ただそれだけだったのー!」
はいはい、もう分かったから。
「波音くんっていう彼氏ができたんでしょ?素敵じゃない。あの子、雛を見る目が優しくて好印象。」
「でもさー楓。ひどいんだよー?」
「子供を作るのは、大人になったらな。」
「やくそくがちがうんですけどー」
結局あの帰り道、声をかけられた雛はすっかり甘えた猫になっちゃって。傷物だから野放しにするのも不安でゲーセンに連れてったと。そして、
「いいじゃないあと1ヶ月もすれば20歳(はたち)よ。」
「だって私は10代最後の夏を1人で過ごすー!赤ちゃんほしーいー!」
(波音君がいるのに気づいてないのかな、もちろん私もいるし。苦笑)
「寂しーよー、あの菌。バイバイバイキング。通称菌を食べる男、上北台先生。」
「納豆食べてるだけでしょ。」
「私納豆嫌いバカやろー!」
好き嫌いの激しい暴言言うお母さんか。大変ね未来の子供ちゃん。楓こと小池楓(私)は気の毒だと思うわ。
波音君、これから苦労するわよ。
「もう、困ったわ。波音くん呼ぼうかしら?」
「波音って呼ぶな!」
「?何で?」
「何か私だけの波音だし。楓は昔から知ってる私と違うし。なんかもやもやする。」
……。( ^ω^ )なんだ意外といい線言ってるじゃない。ウフ
「波音君が雛のこと呼んでるわー!」
「だから呼ぶなって!大野。大野!ー」
「呼んだ?」
「きゃー、いたのぉー?」
(ラインで呼んだのよね、既に波音からあの日の話は聞いてるわ。)
「波音……。な、何の用?」
「楓が呼ぶから。」
「え、ちょっとバラさないでよ。」
「!?この浮気者ー!」
「俺のいとこ。知らなかったんだ。」
「何で教えてくれなかったの?」
「私も波音のこと好きだったから。」
「え「!?」
「うそよ」
掴めない。本当に分からない楓という素敵で大人な友達。私の大切な人。
大切な人が増えたんだって自慢したら楓は。
「告白、うまくいったの!?おめでとう㊗️」
って一番(と言っても楓にしか言ってないけど)喜んでくれた。
「違うよー、あのね。」
私は忘れない。あの時、何があったのか。
「はは、さよならって言って帰っちゃったよ、あの人。」
「違うか、病院か。はは。」
「……やばくない?」
どう声をかけたらいいか分からない。泣いてはないけど。
何か腐った豆腐みたいだ。あ、豆腐は腐ってるのか?
……今はこのテンションで無駄に明るくする時ではない。空回りするだけだ、抑えろ自分。なんて自分の世界との会話は、長くは続かなかった。
「あ、おちたよ。」
「え?」
「…!おねーちゃんありがとう!」
浅陽 雛が腐ってるのに人間だった。人通りの多い夕方の立花駅。女の子が雛にハンカチを渡される。
「パンダが好きなの?」
「うん。」
「そっかー!可愛いよね、またね!!!」
「……いいやつじゃん。」
「だな。」
俺は確信する。この子しかいない。
「さーて帰るかー、私の愛はロス。ロス・ロス・ロス。私が欲しいのはドレス。うわー寒いねー冬だー。」
「あの。」
俺らはこうして繋がった。寒い日だった。