エリートSPはウブな令嬢を甘く激しく奪いたい~すべてをかけて君を愛し抜く~
 どうしても父とふたりで暮らしていた時の感覚が抜けなくて、いつもおかずを多く作り過ぎていた。冷凍できるものは冷凍して食材を無駄にしないようにしている。

 でも結婚したら料理や家事はしなくて済むようになる。円城家には家政婦が大勢いて、私はなにもしなくていいと言われていた。

 手が荒れることもないし、予算の中で食材を買って献立を考えなくてもいいと思えば幸せなことだけど、そうすると私はなにをして一日過ごせばいいのだろう。

 なにもせずに過ごすのは退屈な気がしてしまう。なにより料理をするのが好きだから、それができなくなるのは寂しくもある。

 せめて結婚するまでに父が退院できて、少しの時間でもいいからふたりで暮らせたらいいな。父に手料理を食べさせたいし、できるなら母のレシピを伝授したい。……父にはずっと母の味を覚えていてほしい。

 そんなことを考えながら歩を進めていると見えてきたのは、築四十年以上になる二階建てのアパート。

 私が三歳の頃から住み始めたらしいから、二十年近く暮らしている場所だ。
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