エリートSPはウブな令嬢を甘く激しく奪いたい～すべてをかけて君を愛し抜く～

「笑うなって言っただろ？　それに兄さんまで紅葉様って呼ぶなよ」

「じゃあなんて呼べばいいんだ？　紅葉ちゃん？」

「だめに決まってるだろ」

　すぐに言えば、兄は「嫉妬か？」なんて言いながらまた笑う。

　話がまったく進まず、頭を抱えたくなる。

「もう紅葉様の話はいい。……それよりも最近はどうだ？　同僚からはとくに報告を受けていないが、周りで変わったことはない？」

「あぁ、おかげさまで」

　俺に心配してもらえることが嬉しいようで兄は目を細めた。

「本当だな？　なにかあったらどんな些細なことでもちゃんと報告しろよ」

「わかってるよ」

　これほどまでに俺が心配するには理由がある。

　兄がわずか三十歳という若さで大企業のトップに立ったのは、父が急死したからだ。

　父は至って健康で、誰よりも会社のことを思い、自分が元気にいなければと健康に気遣う人だった。

　信頼も厚く、誰かに恨まれるような人でもないのに、父は何者かによって殺害された。