忘れさせ屋のドロップス
ーーーーカラン。
「早速ケンカ?外まで聞こえてるよ」
白いシャツに黒のタイトスカートの佐藤渚が扉から上半身を出して、こちらを覗いていた。
「はい、これもお願いしていい?」
私に白いプレートとスープカップを手渡す。
「遥、何イラついてる訳?」
渚さんは、朝食の時に遥が座っていた木製椅子に腰掛けた。
「姉貴がそれ聞く?」
遥が寝室に足を向ける。
「遥、逃げんな。座れよ」
「うるせーな!俺にかまうな!」
バタンと大きな音を立てて、寝室のドアが閉まった。
「……まだ早かったかな……」
渚さんが頬杖をついて溜息を溢した。
「あ、あの渚さん、私」
やっぱり、此処に居るのは……そう言おうと思った。
「有桜ちゃん、まだ出社まで時間あるから、私の部屋おいで。……話しておきたいことあるし」
そう言って渚さんは、私の手を取った。あったかい掌だった。
三階の渚さんの部屋の間取りは、遥の1LDKの間取りとは少し異なっていて、奥に部屋が二つある2LDKの間取りだった。
「あ、昔は遥も一緒に此処に住んでたから」
「あっち、の部屋ですよね」
私が思わずふっと笑うと、渚さんも笑った。
ダイニングから見て奥にある二部屋のうち、
左側の部屋の木製扉には波の模様が、
右側の同じ木製扉には桜の花が彫られていた。
その下に『spring』と手彫りで彫られている。
遥、はるか……の『春』から取っているのだろう。
「見た目によらず女子だろ?」
目を細めながら渚さんが、ミルクティーをこちらに差し出した。
「アイツ、ご想像通りの悪ガキでさ、家なんかほとんど帰ってこない時期もあってね。アタシも仕事忙しかったし、遥はいつもイラついてて。甘えたかったんだと思うけど、遥は一言もそんなこと言わなかったし、アタシもお金稼ぐので精一杯で……見ての通り、うち両親いないんだよね。事故で。だから尚更かな。遥は寂しがり屋だから」
渚さんの視線の先の猫足チェストには、男女の映った小さな写真立てが飾られていた。
「早速ケンカ?外まで聞こえてるよ」
白いシャツに黒のタイトスカートの佐藤渚が扉から上半身を出して、こちらを覗いていた。
「はい、これもお願いしていい?」
私に白いプレートとスープカップを手渡す。
「遥、何イラついてる訳?」
渚さんは、朝食の時に遥が座っていた木製椅子に腰掛けた。
「姉貴がそれ聞く?」
遥が寝室に足を向ける。
「遥、逃げんな。座れよ」
「うるせーな!俺にかまうな!」
バタンと大きな音を立てて、寝室のドアが閉まった。
「……まだ早かったかな……」
渚さんが頬杖をついて溜息を溢した。
「あ、あの渚さん、私」
やっぱり、此処に居るのは……そう言おうと思った。
「有桜ちゃん、まだ出社まで時間あるから、私の部屋おいで。……話しておきたいことあるし」
そう言って渚さんは、私の手を取った。あったかい掌だった。
三階の渚さんの部屋の間取りは、遥の1LDKの間取りとは少し異なっていて、奥に部屋が二つある2LDKの間取りだった。
「あ、昔は遥も一緒に此処に住んでたから」
「あっち、の部屋ですよね」
私が思わずふっと笑うと、渚さんも笑った。
ダイニングから見て奥にある二部屋のうち、
左側の部屋の木製扉には波の模様が、
右側の同じ木製扉には桜の花が彫られていた。
その下に『spring』と手彫りで彫られている。
遥、はるか……の『春』から取っているのだろう。
「見た目によらず女子だろ?」
目を細めながら渚さんが、ミルクティーをこちらに差し出した。
「アイツ、ご想像通りの悪ガキでさ、家なんかほとんど帰ってこない時期もあってね。アタシも仕事忙しかったし、遥はいつもイラついてて。甘えたかったんだと思うけど、遥は一言もそんなこと言わなかったし、アタシもお金稼ぐので精一杯で……見ての通り、うち両親いないんだよね。事故で。だから尚更かな。遥は寂しがり屋だから」
渚さんの視線の先の猫足チェストには、男女の映った小さな写真立てが飾られていた。