忘れさせ屋のドロップス

「見な、いで……ンッ……だ、め……」

頭が真っ白になる直前で、遥は指先をそっと抜き出すと、意地悪く笑って私の唇にキスを落とした。 

「ちゃんと今日は起きてろよ」

「いじ……わる」

呼吸が浅く、うまく返事できない私を見ながら、遥が口角をあげた。 

そして私の頬に触れると、遥は急に真剣な顔をした。

「……もう何処にも行くなよ」

薄茶色の瞳が私だけを映し出す。その瞳にずっと私だけを映して欲しいの。私だけを見て欲しいの。

「遥……離さないで」

私たちは、深くゆっくりと何度も口づけを交わしながら、互いの熱を伝染させていく。

気づいたら溢れていた涙を遥が掬いながら、ゆっくりと互いの心を包むように、私を労わりながら、優しく確かめるように入ってくる。


「有桜」

何度も何度も名前を呼ばれて、意識が浮いたり沈んだりしながら、遥とひとつに混ざり合っていく。

寂しいを分け合いながら奥深くで繋がっていく。遥の心の一番近くで、寄り添えた気がして幸せだった。

あんなに怖かった夜なのに、もう朝が来なくたって構わない。


ひとりぼっちで泣いていた心は、溶けて混ざって満たされて、遥が居ればもう何もいらなかった。


ーーーーいっそこのまま時がとまればいい程に。

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