忘れさせ屋のドロップス
「出してください」

母親の一言で、タクシーに乗るとすぐに走り出した。窓から、遥と一緒に暮らした部屋のガラス戸を見つめる。

忘れさせ屋の広告のないガラス戸には、日差しが差し込んでいた。

遥を優しく照らしてくれてるだろうか。

多分、遥は今頃泣いてるんじゃないだろうか。

遥はずっと苦しそうだった。平気なフリして沢山嘘をついて、私を泣かせたことで、自分を責めて。

あんなにいっぱい、思ってもないことを言うことが、どれほど辛いか私だって分かってた。


それでも、遥に、学校辞めて一緒に居ようかって言って欲しかったの。

私は、子供だから。学校も将来も夢もどうでも良かった。

遥と一緒に居れたらそれで良かったの。

溢れた涙はスカートの上に滲みになる。


『泣くなよ』 

『大丈夫だから』

『有桜が大切だから』


好きって言ってくれなくてもいいの。
那月さんを忘れられなくてもいいの。
ただ、遥が恋しくてたまらない。

 
「……ひっく…………遥……」


ずっと一緒に居たかった。


ーーーー遥以外、何にもいらなかったんだよ。
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