片翼を君にあげる③

そんな事、俺には……っ。

出来ない、と思った。
けど、俯きかけたその瞬間。俺の頬に触れていたランの左手首に着けられている、桃色の石(ローズクォーツ)のブレスレットが瞳に映った。
すぐに分かる。
それは間違いなく、最後に会った日の夏祭りに俺がやった物。

「……ね、ツバサ。
可愛い姪っ子の頼み、聞いてくれる?」

あの夜の事を、鮮明に思い出す。
ランがあの時、言ってくれた言葉を……。

「絶対にレノアと幸せになってね!」

何も気付けず、自分の事ばかりだった俺に、ランはそう言ってくれた。

同時に、大好きな笑顔が広がる。

「それからね、もう一つ!
必ず、白金バッジの夢の配達人になって!」

……
…………そう。
それ、が……本物の、ランだった。

今目の前に居るのは、偽りの……作られた笑顔。本当のランの笑顔は、こんなんじゃない、って俺は気付いた。

そして。
本物のランは、レノアを傷付けたい、なんて微塵も想っていない事もーー……。

このまま俺が今の状態を見過ごしてしまえば、ランは間違いなくレノアを殺めてしまう。
そんな事は、絶対にさせてはならないと思った。

それが、俺がランにしてやれる……最後の事。

……俺は、頬に触れているランの左手に、自分の左手を重ねて、彼女と見つめ合った。

もう、ランはここには居ないーー……。

けど、俺はどうしても、伝えたかった。

「俺、絶対に白金バッジの夢の配達人になる。
絶対に……っ、絶対に、約束するからッ……。なっ?」

精一杯、微笑んだ。
ランの表情は、変わらなかった。

でも。
ポタポタと溢れる涙を見て、俺は目を閉じて……。天使の能力(ちから)を、解放した。

ーー……ラン。
……、……ありがとう。

目を開けて、次に瞳と瞳を合わせたら……。
パァンッ!!って、何かが弾ける音がして……。

ーー……ドサッ。

ゆっくり目を閉じて……。
力無いランが、俺の腕の中に倒れ込んできた。
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