*結ばれない手* ―夏―
「そんな凪徒くんをずっと見てきたけれど、演舞以外でも人間らしい表情を見せ始めたのは、多分モモちゃんが入団してからだと思うわ。きっと彼の中に目標が出来たのね。モモちゃんを立派なパフォーマーに育てるって目標が」

「あ、あたしを……?」

 コクンと一つ、夫人が首を上下させる。

「モモちゃんが来てからの凪徒くんの舞は、更に磨きが掛かったわ。自分を簡単には越えられない壁にしようとしたのかしらね。技も表情も生き生きしてた。きっと彼の『居場所』が決まったのだと感じたわ。だから。モモちゃんもそれに応えてあげて。頑張っていれば……きっと凪徒くんも戻ってくるから──」

「夫人……」

 胸から溢れ出す想いが言葉を詰まらせた。

 ──そうだ……頑張ろう。一つ一つ、全ての舞を。

 モモは唇を引き締めて、夫人に大きく(うなず)いた。

 全身全霊を懸けた美しい舞を、『目標』である凪徒に捧げるために──。


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