*結ばれない手* ―夏―
「悪いがこれ以上遅刻したくないのでね、会議の場所は約束通り社長室でいいね?」

 戸惑う受付嬢を強引にやり込めた高岡は、再びニッコリと微笑んだ。

 モモの肩を柔らかく包んでエレベーターの方角へ促した。

「あ、あの、高岡様! そちらのお嬢様は……?」

 既に背を向けた二人の後ろ姿に、最後の攻防を仕掛ける受付嬢。

 振り向いた高岡は、

「私の娘だよ。今回の会議のメインとなる重要人物だ」

「は、はぁ……」

 受付嬢に満面の笑みを置き土産にして、三人を連れ立ちスタスタと歩き出した。

 真っ白で眩しい廊下を進み、振動一つ感じさせないエレベーターで最上階(の54階!!)を目指す。

 変わらぬ表情で隣に立つ紳士を見上げて、モモは呆然と(つぶや)いた。

「お父様……?」

「団長の……仕業(しわざ)、ですね?」

「え?」

 その問いかけに、今度は逆隣の暮を見上げる。

 暮は「面白そうだ」という顔をして高岡を見つめていた。


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