*結ばれない手* ―夏―
「まぁね。昨夜タマちゃんから電話をもらった時には驚いたが、また明日葉と会えるのだと思ったら、居ても立ってもいられなかったよ。何はともあれ間に合って良かった」

「あ……ありがとうございます!」

 事の真相を得て、モモもようやく我に返った。

 そしてついに『敵』の本拠地へと辿(たど)り着く。

「思い切って行っておいで。もしもサーカスが解散させられたら、私も尽力するからね」

「お父様……は、はいっ! ありがとうございます!!」

 モモは高岡の広い胸に抱きついた。

 しばらく紳士の抱擁に包まれて、やがて緊張した面持ちを暮と秀成に戻し、凛と立つ。

「暮さんも秀成君もありがとうございました! ココからは独りで行ってきます。絶対先輩を取り戻してきます!!」

「何か()ったらすぐ呼べよ? ここで信じて待ってるから」

「はいっ!!」

 モモは元気な声で、ピンと伸ばした右手をこめかみに当て敬礼をした。

 同じ姿勢を返した二人にくるりと背を向けて、社長室の重厚な扉の前まで進んだ。



 力強い握り拳で、『(いくさ)』を始めるノックをした──。


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