*結ばれない手* ―夏―

[36]成長と壁

 モモ達四人と扉一枚で(へだ)てられた社長室内部。

 外からのノックの音に、桜社長は(いぶか)しげな眼差しを注いで(つぶや)いた。

「こんな時間に何だ……? 誰も通さないようにと通告しておいたのだが」

 それでも一旦話し合いを中断し、「どうぞ」と低い声で一言答えた。

 ゆっくりと外側に扉が開き、口元をキリリと引き締めたモモが入室して一礼をする。

「モモちゃん……」

「……モモ!?」

 杏奈の喜びを含んだ声と、凪徒の驚きの声が重なった。

「早野 桃瀬と申します。会議中に失礼致します」

 モモは閉じた扉を背にしたまま、正面の一人掛けソファに腰かける桜社長に挨拶をした。

 生きていれば二十五歳の息子がいる筈の父親だが、まだ五十に満たない面立ちに見える。

 若くして結婚したのだろう。

 細身だが頼りない感じは皆無で、以前聞いた声の通り威厳に満ちていた。

 が、凪徒は母親似なのか、血の繋がりは微かにしか感じられない。

 右隣の二人掛けソファには杏奈、相対するように左側には凪徒が座っているが、スーツを着込んだ彼はもはや別人のようにしか思えなかった。


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