*結ばれない手* ―夏―
「ありがとな、モモ」

 フッと笑い、そう言いながら立ち上がる凪徒。

 モモに近付き、ポンと頭に乗せた手を、次には右肩に置いて、その手で少女を引き寄せた。

 ──先輩……手、繋いでくれなかった……。でもきっと、これが『妹』の距離、なんだ──。

 モモは頬に押し当てられた凪徒のスーツに、(ひぞ)やかにほんの少し、涙の跡を(にじ)ませる。

「わりい、おやじ。まだ帰れる場所があるみたいだから、俺、帰るわ」

 凪徒はモモごと扉の方向へ回転し、左手を軽く上げ出口を目指した。

「とりあえず帰るのは構わんよ。が、十月二十六日、必ず戻ってくるようにな」

「だから、俺は杏奈とは──!」

 変わらず落ち着いたままの父親の呼びかけに、凪徒は振り返り声を荒げた、が──。

「杏奈君と結婚するのはお前じゃない。──この私だ」

「ああっ!?」

 驚く凪徒とモモの視界に入ったのは、先程の凪徒と同じく意地悪そうで愉しそうな桜 隼人の微笑だった──。



★二つのどこかで聞いた台詞は、Part.1のどこかにございます。


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