*結ばれない手* ―夏―
「杏奈……兄貴を殺したのは、おやじみたいなもんじゃないかっ。何でそんなおやじと──」

「貴方、分かってないのね。まぁ仕方ないかしら。ずっと目を(そむ)けてきたんだから」

 杏奈も微笑みを絶やさず凪徒に答え、隼人に愛情の込もった視線を落とす。

「この人も十分苦しんだのよ……タクが死んだ時も、貴方達の母親──芙由(ふゆ)子さんが亡くなった時も、そして貴方が出ていった時も……。独りにされてしまった隼人さんを支えてきたのは、この私。それで気付いたの。この人も被害者だったって。隼人さんもタクと同じだった……父親に企業家として育てられて、散々叱りつけられて……いわばアダルトチルドレンだったのよ。貴方達に上手く愛情表現出来なかっただけで、本当は愛に溢れていた」

 そうして隼人の背後に回した右手が、整えられた彼の髪を撫で、そのまま頬を経由して右肩に回された。

「そんなこと、信じられる訳がない。だったら何でおふくろを裏切ったんだ!」

「それは……」

 杏奈もそこに理由を見出せなかったらしく、困ったという顔色を見せたが、


< 156 / 178 >

この作品をシェア

pagetop