*結ばれない手* ―夏―
「十月二十六日、君達も来られるなら是非おいで願いたい。タカちゃんも桃瀬君といかがかな?」

「あ……あたし達も、良いのですか? その時期ならサーカスの移動中なので、何とかなるのではないかと……」

 モモの言葉が暮の(うなず)きでにこやかな笑顔に変わる。

 隼人と杏奈にお礼を言ったモモは、見守る高岡紳士に同意を求める視線を上げた。

「私も大丈夫だよ、明日葉」

「お父様に買っていただいたワンピース、着ていきますね」

「それは楽しみだ! で、ハヤちゃん、式場はどこだい?」

 再び戻された隼人へ集中する全員の目線、その時凪徒には一瞬嫌な予感がよぎった。

「ああ、杏奈が大好きでね、東京○○○○ー・リゾートを全て貸し切った」

 ──……やっぱり……──。

 目を閉じ、軽く右手でこめかみを押さえる凪徒。

「え……っと……それって、あの『夢の国』……ですよね?」

 ──そんな所、全施設を、それも日曜日に貸し切れるものなの?

「まぁ、三ツ矢と桜のネームバリューがあれば──」

「おやじっ! 会社の力をプライベートに利用すんな!」

「あらん……怒られちゃったわね、隼人さん。でもナギ、これは一世一代の大イベントでしょ?」

 確かに日本四大財閥中の二家、その当主と、一方は大切にされてきたであろう一人娘が婚姻を結ぶとなれば、それは日本経済を根底から(くつがえ)すほどの威力となり得るだろうが──意外に真面目な凪徒と悪戯(イタズラ)好きな杏奈のやり取りを見て、モモは大きな目を思わず白黒させてしまった。


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