*結ばれない手* ―夏―

[5]連行と憧憬

 最寄りのインターチェンジから高速に乗り、向かっているのは東京方面、流れる景色も徐々に乱立したビル群に変わってゆく。

 モモはしばらく運転席の杏奈に声をかけられなかった。

 横目に映るサングラスを乗せた美しい鼻筋。

 その口元はやや口角が上がり、微笑んでいるように思われたが、あの鬼のような凪徒を負かしてしまった女性だ。

 今自分は彼女の手中にあるのだから、何かを言って怒らせてしまうことが怖かった。

 助手席でピクリとも動けずに、ただ目の前を過ぎる車や案内に視線を走らせる。

 凪徒の過去。心を読まれたかのようにタイミングの良過ぎる『(ワナ)』だった。

 ──でも……過去を知ってどうするというのだろう? しっかり振ってくれた仕事のパートナーの昔など、今の自分には何の意味もない。

「あんまり緊張しないで。()って喰おうって訳じゃないから」

 杏奈は少しだけモモを視界に入れて、クスりと笑った。


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