*結ばれない手* ―夏―
 『手の届かない相手になる』──それは今までなら手が届く相手だったということ? でも──『元々そうなのかも』ということは、今までも届く相手ではなかったということ? だけど……どうせ条件が揃ったところで、先輩はあたしを見てなんていなかったんだ……恋愛対象として。

「サーカスの人って、いつもそんな格好なの?」

 気が付けば、両手で頬杖を突いた杏奈がまじまじとモモの姿を見回していた。

 お気に入りのペールブルーのTシャツと黒のジャージ、サーカスでは当たり前の服装だが、明らかにこんな洗練された街並みには似つかわしくない。

「す、すみませんっ……特に出掛けるつもりではなかったので……」

 モモは顔を紅くして(うつむ)いた。とはいえ外出する時でさえも、大して変わらないTシャツにジーパンが定番なのだが。

「ちょっと“社”に連れていくにはそぐわないかしらね。食べ終えたら買い物しましょ。もちろん“お姉さん”がおごってあげるわ」

 ──今年は見ず知らずの人に連れ回されたり、洋服買ってもらうことが多いなぁ……。

 急ぎ食事を進めながら、モモは春に起きたあの誘拐事件を思い出していた──。

(『*夜桜の約束* -春- をご参照ください)


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