*結ばれない手* ―夏―
 と共に手に()げたショップの袋と自分の格好にギョッとする。

 こんな姿を誰かに見られたら、どれだけ問い(ただ)されるか知れたものじゃない。

 ──コンビニの化粧室でも借りて着替えよう……。

 と向かう先を反転させた途端、

「モモ」

 背後からの低い声が、背中をゾワゾワさせながら登ってきた。

 ──先……輩……?

「今までどこに行ってたんだ」

 恐る恐る振り向いた先に、黒く長い影が見えた。

 漆黒の髪に紺のTシャツと濃いグレーのジャージを身に付けているため、夕暮れの赤みのある闇の中でも更に暗黒のようだ──まるで悪魔か死神のように……?

「せっ、先輩~奇遇ですね! ご、ご機嫌(うるわ)しゅ……う」

 明らかにおかしな挨拶を返してコンビニへ歩を進めようとしたが、スタスタと長いコンパスを数歩動かして、モモの目の前に立ちはだかってしまった。

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