*結ばれない手* ―夏―
「『つまみ』も十分のようですね~出来れば『本人』のいない所で、味わっていただきたかったですけれど……」

「いや、あの……」

 凪徒の遠慮がちな言葉は、もはやモモには届いていないようだ。

「もう存分にお楽しみになられたみたいなので、このビールは撤収しまーす」

「モモっ!」

 元気良くそう宣言して、クルリと背を向けモモは出ていってしまった。

 バツの悪そうな凪徒の呼び声は、すぐさま閉められたガラス戸に跳ね返されていた。

「やっべぇ……」

 打ち付けた顎をさすりながら暮は言葉を(こぼ)して身を起こし、すっかり酔いの醒めた青白い顔を扉に向ける。



 ──何よ。そんなこと分かってるけど……何も声に出して言うことないじゃない……。

 屋外に飛び出したモモはすぐさましゃがみ込んで、目の前に重いトレイを置き放した。

 引き戸は上半分だけが透明ガラスなので、きっと気付かれてはいないだろう。

 ──せめてもう少し、夢見させてくれてても良かったのに……──。

 そのまま膝を抱えて顔を(うず)める。

 モモはしばらくその場を動けなかった──。


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