*結ばれない手* ―夏―
「凪徒の意気地なし~! お前もう二十三だろー? その内ファンに取られちまうぞー」

 勢いづいた暮の冷やかしは止まる様子もなく、徐々にその細い目が据わっていく。

 凪徒は呆れた冷たい視線を一度向け、頬杖を突き、逆方向の宙を仰いで一言。



「だぁれが、モモなんて、あんなガキ相手にするか」



 その時一瞬空気が凍りついたように時間が止まった。

 凪徒の眼下で突っ伏していた鈴原が、キュッと身を縮こませゆっくりと起き上がる。

 嫌な予感が胸の奥から湧き上がった凪徒は恐る恐る振り返り、同じ形相をした暮の向こうに独り立ち尽くす細い影を見つけた。

「ガ、ガキで悪うございましたわねぇ……おほ、おほほ」

「モモ……」

 引き戸の手前で引きつった笑いを見せた『モモ』こと早野 桃瀬の腕は、缶ビールを乗せたトレイの重さなのか、(いか)りの表れなのか、ピクピクと震え出していた。

「随分とお酒が進んだようで……」

 刻まれた笑顔はどことなく歪んでいる。


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