*結ばれない手* ―夏―
「あいつは裏切り者だ! 信用ならないっ。結局おやじの『犬』に成り下がった悪女なんだよっ!!」
「先輩……」
今一度両腕を掴まれたモモは、先程に比べてより強く圧迫された力と凪徒の心の叫びに、苦しそうに瞳を細めた。
厳しい顔色から計りしれないほどの憎しみを感じてしまう。
「いいか、もう一度言うぞ。お前は金輪際、杏奈にも桜の人間にも一切近付くな! 俺はあの家から縁を切ったんだ! お前が近付くなら、俺はこれ以上お前とブランコは出来ない!!」
──……先輩……。
凪徒は五年前までに一体彼らとどのような軋轢を生じたのか……モモは彼の奥底から発せられる怒りの声に、目線を外せないまま怯えた頷きを返していた。
「は、はい……」
大きく息を吐き出して、やりどころのない憤怒の刃を噛み砕くようにギリリと奥歯を鳴らす凪徒。
振りほどくが如くモモの腕から自分のそれを外し、既に黒い闇と化した辺りに溶け込み去った。
胸の芯がズキンと痛んで呆然と立ち尽くすモモの腕には、凪徒の指の跡がしばらくの間うっすらと赤く残されていた──。
「先輩……」
今一度両腕を掴まれたモモは、先程に比べてより強く圧迫された力と凪徒の心の叫びに、苦しそうに瞳を細めた。
厳しい顔色から計りしれないほどの憎しみを感じてしまう。
「いいか、もう一度言うぞ。お前は金輪際、杏奈にも桜の人間にも一切近付くな! 俺はあの家から縁を切ったんだ! お前が近付くなら、俺はこれ以上お前とブランコは出来ない!!」
──……先輩……。
凪徒は五年前までに一体彼らとどのような軋轢を生じたのか……モモは彼の奥底から発せられる怒りの声に、目線を外せないまま怯えた頷きを返していた。
「は、はい……」
大きく息を吐き出して、やりどころのない憤怒の刃を噛み砕くようにギリリと奥歯を鳴らす凪徒。
振りほどくが如くモモの腕から自分のそれを外し、既に黒い闇と化した辺りに溶け込み去った。
胸の芯がズキンと痛んで呆然と立ち尽くすモモの腕には、凪徒の指の跡がしばらくの間うっすらと赤く残されていた──。