*結ばれない手* ―夏―
「それと……お前、杏奈に変なことされなかっただろうな?」

「変なこと……?」

 凪徒は真剣な眼を向けてモモの両腕を(つか)み、少女の顔と同じ高さに自分のそれを合わせたが、

「ええと……いや……た、例えば髪を撫でられたとか……」

「髪?」

 さっき頬は撫でられたけど──どうしてそんな心配そうに訊くのだろう? ──も、もしかして、そういう(、、、、)趣味があるのだとか……!?

「か、会社の入口で手を引かれたくらいだと思いますが……」

 脳内におかしな不安が一瞬よぎったが、取り急ぎ出されたモモの返事に、凪徒はいつものようにツンと身体と顔を横に戻して「そうか」と呟いた。

「あの……先輩」

「ん?」

 顔だけをモモの方へ返し、見下ろす姿はいつもの凪徒に戻ったように思える。

 けれどモモの次の句で、凪徒は再び激しさを取り戻してしまった。

「あの、あたし……杏奈さんはそんなに悪い人のようには思えないんですが……」

「……お前に何が分かる?」

 ──ひやぁぁぁっ!!

 凪徒の姿勢がモモへ向けられ、(すご)んだ切れ長の目はレーザービームでも発射しそうなほどメラメラと燃え上がっていた。


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