*結ばれない手* ―夏―
「お前の目は節穴か? それとも寝ぼけてんのか? だったら目覚ましてやる!」

 暮は既に陽の落ちた敷地の端まで凪徒を引っ張っていった。

 振り向いてすぐ怒りの言葉をぶちまけ、凪徒の左頬を思いっきり張った。

「──って!」

「こんなビンタよりずっと痛いって……モモの心は」

 (はた)いた手を握り締めて、悔しげな(おもて)を上げる暮。

 (しび)れるような痛みを発する頬に手を当てた凪徒は、全てが分からないという表情を見せた。

「お前まだ気付かないのか……? タイミング外したのはお前だ。おれは舞台袖でお前達の演舞を見ていた。お前だってモモの調子が良いのは分かっていただろう? お前も悪くなかった。なのに……あれは何だったんだ? 何が()った!? いきなり調子崩しやがって……さっきあんなところでモモを叱りつけたのも一体何だ!! 八つ当たりか!?」

「……俺が……?」

 ──あの時……一瞬……意識が飛んだ……?


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