*結ばれない手* ―夏―
「ったく、口ごたえするなってんだよっっ!!」

 ──バンッ!

 凪徒は寄り掛かっていた長机を思い切り叩き、その間近に乗っていたグラスが()ねた。

 浮き上がり落下する透明な塊。

 が、床に触れた途端ハラハラと砕け散り、その一つが勢い良くモモの顔面を襲った。

「きゃあっ!」

「モモちゃんっ!?」

「……モモっ──」

 左目を手で覆い、二、三歩後ずさったモモは、背後で心配しながら見守っていた鈴原夫人に抱きかかえられた。

 慌てて駆け寄る暮に夫人は、

「大丈夫、(まぶた)をちょっと切っただけみたい」

 そう一言伝えて、モモを救護室へ連れていった。

「……」

 愕然と立ち尽くし、見開いた(まなこ)は何かに(おび)えたように揺らいでいる。

 そんな凪徒の視界に暮はすかさず割り込んだ。

 その細い目は、凪徒とは真逆の責めるような鋭さを浮かべていた。

「凪徒……お前、ちょっと来い」

「──」

 腕を(つか)んでテントの出口へ促す。

 沈黙の二人の背中が小さくなるにつれ、唖然としていた団員達は少しずつ自分の仕事に戻っていった。



 ☆ ☆ ☆


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