*結ばれない手* ―夏―

[20]拉致と監禁

 『あの時』に似ていた──。

 あの春の日曜日。

 柔らかな陽差しが暖かくて(まぶ)しくて、でもまだ眠りたくて……心地良いベッドの上で寝返りを打った高岡邸、明日葉の部屋のあの朝に──。

 そっと優しい感触が頬に触れて、モモはふと目を覚ました。

 (わず)かに開かれた視界の中に鮮やかな赤が射し込まれて、何かを思い出したように数秒思考が脳内を巡る。

 赤──赤い車、赤い爪、赤い唇──杏奈……さん?

「えっ……!?」

 咄嗟(とっさ)に目を見開いて、横になったまま固まった。

 モモのすぐ隣には杏奈の顔があって、ベッドマットに頬杖を突きながら、逆の手はモモの頬を撫で、満面の笑顔を向けていた。

「あらん……起こしちゃった? ごめんなさいね。だって貴女のほっぺ、とっても気持ち良くて」

「ひっ!?」

 慌てて身体を起こし、反れるだけ背を反らして杏奈から離れた。

 ──どこ!? ここ!! 何で?


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