*結ばれない手* ―夏―
「うふ……あのアイスティに睡眠薬、入れちゃった」

「す、睡眠薬……?」

 杏奈は悪戯(イタズラ)したことを笑ってごまかす子供のようにおどけてみせたが、モモはそんな彼女のいつになく可愛げのある仕草になど構っている余裕はなかった。

 ──あのサーカスの出口で急に眠くなって……あたし……ま、また(さら)われた!?

 どれだけ自分にはスキがあるのかと、我ながら呆れてしまう。

「あっ」

 お次に自分の身体を見回して、モモは安堵の息を吐いた。

 ──昨夜の格好のままだ──もしもそういう(、、、、)趣味があったなら──と一瞬通り過ぎた嫌な予感は(ただ)ちに払拭(ふっしょく)された。

「やだ、なあに? 何か変な想像した? 大丈夫よ、『そっち』の人間じゃないから。貴女とゆっくり話すには来てもらった方が楽だと思って。でももう十二分に警戒されているのは分かっていたから、ちょっと強硬手段に出ただけよ」

「はぁ……」

 けれど頬に触れられたのは、気付いているだけでもう三度目だ。

 自分の肌がそんなに気持ち良いとは思えないモモは、やはり疑惑を消し去ることは出来なかった。


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