*結ばれない手* ―夏―
 そこで一旦口をつぐんだ杏奈は、再び冷茶に手を伸ばした。

 モモは幾ら唇と喉が潤いを求めても、その手は脚の上で握られたまま動かす気持ちにはなれずにいた。

 家族を失った凪徒──昔の自分と同じ……? ううん、きっと違う。初めから家族のいなかった自分とは明らかに……途中で失うことの辛さなんて……あたしにはまだ良く分からない──。

「私は残念ながら、貴女の母親かもしれないその女性とは、面識がないから何とも言えないけれど。昔タクから聞かされた話では、とても肌の白い、髪の茶色い大人しそうな女性だったそうよ。もちろん髪は染めていた可能性があるけれど、あんなに明るく染めるような感じの女性には見えなかったって。おじ様も言っていたわ。あの髪色は元々だったのだろうって。……おじ様に貴女の写真を見せたのよ。きっと多分……貴女は『彼女の娘』に違いないって答えたわ。どう……信じる?」

「……」

 自分の母親が、凪徒の父親と……モモにはどうにも信じられることではなかった。

 でももしそうだとしたら……初めから凪徒は自分を妹として見ていたのだろうか?

 そして母親であるその女性は自分を施設に預けた後、一体どこへ行ってしまったのか。


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