素敵な天使のいる夜にー4th storyー
「絢翔が悪いわけではないんだ。
沙奈が今日、1日を乗り切れた。
沙奈が、笑っている姿を見て心から嬉しかった。
それと同時に、他の男がその笑顔を近くで見ているって思ったら…少しだけ、嫉妬心が芽生えてしまったんだ…」
この先の言葉を続けるのが、少しだけ怖かった。
医者としてじゃない。
恋人として、1人の男としてそんな自分を見せるのは初めてだから…
「病院にいた時の沙奈の世界は、俺や紫苑達と病室だけだった。
それは決して良いことじゃない。
だから、沙奈が無事に大学へ戻れて、友達とまた笑い合える場所が増えて、本当に嬉しい…
でも…
沙奈の世界が広がれば広がるほど、俺だけじゃなくなっていく気がして、少しだけ怖くなってしまったんだ。」
こんなこと、言うつもりじゃなかった。
俺らしくない。
子供みたいだ。
「ごめん…。困らせるつもりじゃ…」
沙奈はしばらく黙り込んでから、小さく笑った。
「…大翔。」
「ん?」
「手…繋いでもいい?」
予想もしなかった沙奈の言葉に、心臓の鼓動が加速する。
「いいよ。」
沙奈の少し冷たい手が、俺には優しい温もりに感じた。
その温もりだけで、不思議とさっきまであった胸のざわつきが落ち着いていく。
「大翔、私ね…」
「うん。」
「今日1日で、1番安心したのは…
大翔が、迎えに来てくれた時だった…
大学へ戻ってから今日1日改めて思ったの…
私は、大翔がいたからまたこうしてここに帰って来れた。
あの時、大翔が無理をしていた私を止めてくれて守ってくれたから…
毎日、私の気持ちと真剣に向き合ってくれたから…
たとえ、大学に戻ってこの先色んな世界が広がったとしても…
大翔は…私の帰る場所だから…」
その言葉に、息が止まりそうになる。
帰る場所。
医者としても。
恋人としても。
それ以上に嬉しい言葉はなかった。
「……反則だな。」
思わず笑う。
「え?」
「そんなこと言われたら。」
沙奈の手をゆっくり握り返す。
「もう一生、離せなくなる。」
沙奈は少し照れながら笑う。
「離れませんよ。」
その笑顔を見た瞬間。
教室で感じていたざわつきが、嘘みたいに消えていった。

