15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

*****


「お母さんは時々、お父さんのこと名前で呼ぶよね?」

「そうね」

 二日前同様に、食事の後で和葉が食卓に質問用紙を広げた。

「でも、お父さんはお母さんのこと、名前で呼ばないよね」

「……そうね」

 気づかなくていいことに気づくのは、女の子だからか。由輝が両親のそういったことに無関心なだけか。

「私は、結婚して子供ができても名前で呼んで欲しいなぁ」



 マセたことを……。



「で? 質問は?」

「結婚する前は、お父さんはお母さんのことなんて呼んでたの?」

「普通に名前で」

「柚葉、って?」

「そう」

「えぇーっ! 想像できなーい」

 両肘をテーブルに立て、掌に顎をのせた和葉が唇を尖らす。

 思えば、和葉が生まれて間もなくから、和輝は私を名前で呼ばなくなった。

「質問はっ!」

「お父さんとお母さんが知り合ったきっかけは?」

「第一印象から更に前に戻ったのね」

「愛華のパクリ」

「愛華ちゃんのお父さんとお母さんと比較されたくないなぁ」

「他にも似たようなテーマの子いるから大丈夫」

 どこが大丈夫なんだろう。

「はい! きっかけは!?」

「友達の紹介」

「ありがち~」



 悪かったわね。



「幸せの押し売りってやつでしょ?」

「どこで覚えるの、そんなこと」

「ね! その友達はどうしたの?」

「ん?」

「お父さんとお母さんを会わせた友達」

「別れた」

「えっ! きまずっ!」



 ええ、気まずかったわよ。



 私たちをくっつけようとあれこれ世話を焼いた挙句、当の二人は浮気だなんだで大揉めに揉めて別れた。

 結婚式に二人を呼ぶか滅茶苦茶悩んで、結局二人とも呼ばなかった。

 二人が別れた時、私たちにちょっとした悪意が向けられ、友達付き合いはなくなっていたし。

 和葉が質問の答えを書き込み、顔を上げる。

「ね! 初めてのデートの場所は?」

「食事しただけ」

「つまんなっ!」



 だから、言い方……。



「社会人同士のお付き合いなんて、最初はそんなものです。仕事帰りにちょっとご飯食べるとか」

「何食べたの?」

「ファミレス」

「うわっ! 引くわぁ」



 そのまま和輝にも言ってやって。



 初めて食事した時はまだ、紹介された手前、ちょっと会っとくかって感じだった。

「あ! ねぇ、初めてもらったプレゼントは?」

「シュシュ」

「やすっ!」

「あんたねぇ……」

 大人の恋に夢を見ている娘の将来が不安になる。

「お父さんて、お母さんの何番目の彼氏?」

「はい!?」

「愛華、お母さんの元カレに会ったことあるんだって。今はオトモダチだからって、よく会ってるらしいの。すっごいすっごいイケメンだって!」



 え、それ、いいの……?



「お母さんの元カレは? お父さんより格好良かった?」

「いないわよ、元カレなんて」

「えっ?」

「お父さんが初めての彼氏だもん」

「えええぇーーーっ!」と、和葉が家中に響く声で驚いた。



 そんなに驚くこと!?


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