15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

 実紗ちゃんのお母さんは全く悪びれない。

「私は、愛華ちゃんのママが男性と二人きりで会っていて、親密そうだったと事実を話しただけですよ? 誤解されるような真似をする方が――」

「――妻が男と二人きりで会ったことはないし、親密そうだったと言うのもあなたの価値観でしょう? ご存じかもしれませんが、妻は海外での生活経験もあるので、他人との距離感が近いと感じることもありますが、それがあなたに関係ありますか? その上、あなたの娘さんは他のお子さんに、妻が浮気して出て行ったと吹聴したと聞いています。私は小さい会社ながらも経営者です。業務に支障が出るようなことになれば、名誉棄損で訴えさせてもらう!」

 愛華ちゃんのお父さんが、お母さんを庇うように、実紗ちゃんのお母さんと対峙した。

 愛華ちゃんのお父さんは株とか買収関係の仕事で、規模は知らないが毎年数十億の利益を上げているはずだ。

 実紗ちゃんのお母さんに言ったことは、脅しじゃないだろう。

 いつも実紗ちゃんのお母さんと一緒にいるお母さんたちは、旦那さんと遠巻きに見ているだけだった。

 子供たちが先生とのお別れを済ませて出てきた。涙ぐんでいる子もいる。

 みんなで写真撮影をした。

 その時、誰かの声が聞こえてきた。

「実紗ちゃんのパパとママ、別居してるらしいよ」

「え? なんで?」

「最初は、パパはインフルエンザになったから、家族にうつさないようにお祖母ちゃん家にいる、とか言ってたらしいけど。実は女のところらしいって」

 一体、どこからそんな情報が洩れるのか。

 しかし、どこかで聞いた話だ。

「由輝も知ってるのかな、今の話」

 和輝も同じことを思ったらしい。

 まさか、私もインフルだと言って浮気してるだなんて心配したわけじゃないだろうか。

 まさか、だ。

「お母さん!」

 友達との別れを終えた娘が、満面の笑みで駆け寄ってくる。

「愛華のお母さん、赤ちゃんが出来たんだって!」

「えっ!?」

「はぁ!?」

 これには、私も和輝も驚いた。

 驚き過ぎて、当人に聞いてみた。

 愛華ちゃんのお母さんは確かに妊娠していて、診察に訪れた産婦人科で元カレに再会し、前の妊娠から十年以上も間隔があることや年齢のことなんかを相談した。その時、愛華ちゃんも一緒だった。

 それが旦那さんに知られ、よりによって元カレの診察を受けるなんてと喧嘩になった。

 そこへ、実家から電話があり、妊娠初期に飛行機移動するなと止める旦那さんを振り切るように実家に帰った。

 実紗ちゃんのお母さんに見られたのがいつかはわからないけれど、誰に見られてもおかしくないような場所で会っていたし、やましいことはないと愛華ちゃんのお母さんは笑って言った。

「愛華ちゃんのお母さんて、柚葉より年上だろ?」と、家に帰ってスーツを脱ぎながら和輝が言った。

 私はウォークインクローゼットの中でスーツを脱ぎ、ハンガーにかけていく。

「うん。二つ……か三つ? 旦那さんは十歳くらい年上じゃなかったかなぁ」

「五十過ぎで三人目か……」

「びっくりだよね」

「俺らも作る? 三人目」

「えっ!?」
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