15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

 お父さん用とお母さん用の質問用紙があったのだろう。未記入のものを持って和葉が戻って来た。

「なんだ? 何の宿題だ?」

 ワイシャツの袖を捲りながら、和輝が食卓に着く。

 娘から宿題の内容を聞いて、チラッと私を見た。

「お母さんは終わったから、シャワー浴びてくるね」

 和葉は父親の隣に座り、質問を始める。

「お母さんと初めて会った時の感想は?」

 私はキッチンから廊下に出て、ドアを閉め切らずにじっと中の声に耳を澄ませた。

「若いなぁ」

「それだけ?」

「第一印象だろ?」

「そうだけど!」

 和葉が不満気に言った。

「次! どっちが最初に好きって言ったの?」

「……お母さんはなんて言った?」

「パスだって」

「じゃあ、お父さんも――」

「――ダメ!」

 カチャカチャと、スプーンがカレー皿に当たる音がする。

「……お父さん」

「お父さんなの?」

「どっちかと言えば、な」

「ほんとにぃ……?」



 ほら、嘘がつけない。



 廊下で、私は思わずくすりと笑う。



 友達に焚きつけられて、断れなくなったなんて言えるはずないか。



「お母さんのどこが好きで結婚したの?」

「親のそんなの聞いて楽しいか?」

「宿題だから、楽しいかどうかじゃないんですぅ」

 完全に楽しんでいる娘に翻弄され、たじたじの夫が目に浮かぶ。

「はい! お母さんの好きなところ」

「んーーー…………」



 悩み過ぎじゃない?



「悩み過ぎ!」

 いつもの私と同じ口調で娘が言った。

「ご飯が美味しいところ?」

「なんでハテナ?」

「ご飯が美味しいところ!」

「あとは?」

「一つじゃダメか?」

「ダメ!」

「ええぇーーー……」

 本気で困っている声。

「もうっ! 最後にもう一回聞くからね。次!」

「まだあるのかぁ?」

 まるで子供だ。

「次に、お母さんの嫌いなところ」

「嫌いなところ?」

「うん」

「それ、お父さんとお母さんが結婚した理由に関係ないだろ」



 私と同じこと言ってる。



「好きなとこだけじゃバカップルじゃん」と、和葉も私の時と同じことを言う。

「嫌いなところ……」



 悩んでる、悩んでる。



 きっと、子供に言っていいのかとか必死に考えてるのだろう。

 余計なことを言ったら私に怒られるから。

「お父さんより逞しいところかな」

「逞しい?」

「……うん」



 逞しい……。

 私、そんな風に思われてたんだ。



 間違いじゃない。

 年下の華奢で素直な私はもういない。

 妻になり、主婦になり、母親になり、パート勤めもして、私は強く逞しくなった。

 結婚したての頃、和輝が出張で家を空けることを寂しがっていた私は、もういない。
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