オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
第8章 幸せを願う
あの後、二人して眠ってしまって、結局、家に戻ってきたのは、お昼すぎていた。

冬馬も、一緒に春樹と話すと、何度も言ってくれたが、私は春樹と二人で話したかったし、冬馬を待ち続けている、芽衣のことも気になって、断った。

冬馬はあとで、連絡するからと言って、心配そうに私を見ながらも、芽衣の待つ自宅へと戻っていった。

私は、鞄から家の鍵を取り出すと、鍵穴に差し込もうとして、少しだけ動きを止めた。

春樹は、きっと、リビングで待っているのだろう。朝に戻ると冬馬から連絡をしたはずなのに、もう12時回ってる。

きっと、私が、昨日冬馬と共に夜を過ごして、何をしたのか春樹は分かってる。

春樹を、どんなに傷つけたのか分かってる。だから、罰は受けなきゃいけない。それは、私がきちんと春樹から受けなければ意味がない、と思った。

その為にーーーー私は、冬馬と全てを捨てたのだから。

ガチャリと鍵音がして、ドアノブを回して、玄関に私が入るのと同時だった。

「明香っ」

春樹が、私の身体ごと包みこんだ。

「……春樹……」

春樹は、昨日と服装が同じだ。多分、昨日は、食事も摂らず、お風呂にも入らず、ひたすら私と連絡が取れるのを待っていたのかと思うと、たまらなく苦しくなった。

「私……」

春樹は、綺麗な二重瞼を逸らすことなく、私を見つめた。

「少し、話そう?」

私が、小さく頷くと、春樹は、私の左手を握りしめたまま、ソファーに腰掛けた。

私は、春樹の手をそっと解くと、コートを脱いで、春樹に買ってもらった真っ白なマフラーを外そうとして、手が止まった。

これを外せば、冬馬がつけた痕が見えるから。

春樹が、ゆっくりと私のマフラーに手を伸ばした。

思わず、身体を後ろに逸らした私を見ながら、春樹が困ったように、ふわりと笑う。

「分かってるから……」

真っ白なマフラーを外された首元から、冬馬の煙草の匂いが鼻を掠めた。

春樹は、私の首元を一瞬、眺めてから、すぐに視線を逸らした。
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