オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「本当のことじゃん」

二人の会話を聞くと、やっぱり息苦しい。

「冬馬、尻にひかれそうだな」
「ほんとだね」

私は、うまく笑えてるだろうか。春樹に、気づかれないように、小さく深呼吸した。

「冬馬、大量の酒入れたいんだけど」 

「あ、冷蔵庫そこ」

春樹が、冷蔵庫にお酒を仕舞っている間に、私は、ダイニングテーブルの席につくと、並べられた、鍋を見つめる。

私の誕生日の日に、冬馬と鍋の菜箸を取り合ったことを思い出す。

つい最近のことなのに、ずっと前のことみたいに感じるのはどうしてだろう。

春樹が、ビールと缶酎ハイをいくつか持ってくるとテーブルに並べた。

「明香は、お茶な。はい、芽衣ちゃんどうぞ」

「ありがとうございます」

カルピス酎ハイを、両手で受け取ると芽衣が、にこりと笑う。

「冬馬ー、もうくる?」

「もうちょい、先食っといて」

芽衣が、頬杖をついて、振り向くと、台所に立つ冬馬を眺めている。

「じろじろ見んなよな、気が散るだろ」

「冬馬って料理もできるんだなって、おもってさ」

「料理も、って何だよ」

振り返りもせずに、冬馬が、背中越しに返事をした。

「パパから聞いた、仕事もできるし、経営センスもあるって。この間の企画書?には驚いたって言ってたよ」 

「そうなんだよ、俺からも次の役員会には、冬馬も出ること、上役に言っておいたし、冬馬には、もっと前に出てほしいんだよね」

ビールに口をつけると春樹が、喉を鳴らして飲み干した。

「たまたまだよ、うるせぇな」

冬馬は手際よく、鍋の材料を乗せ終わると包丁を置いた。 

「あ、冬馬、持って行こうか?」

立ち上がりそうになった私に、冬馬が、背中越しに返事をした。

「明香は、この前、倒れたばっかだろ、座ってろ。こいよ、芽衣」

はぁいと、冬馬が切り終えた野菜のプレートを芽衣が抱えて、冬馬と並んで座った。

冬馬は、私を気遣ってだと分かってる。

ただ、二人のお皿のやり取りだけでも、胸がチクンと痛む私は、重症だと思う。

いかに冬馬に依存していたのか。側に居てくれるのが、当たり前だったのかを実感する。
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