オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「どした?しんどい?」
春樹が、私を心配そうに覗き込んだ。
「ううん、大丈夫だよ、食べよっか」
慣れていかなきゃいけない。春樹の奥さんは、私で、冬馬の奥さんは、芽衣さんになるのだから。
「あ!すっごく素敵。明香さん、春樹さんから指輪貰ったんですね」
なるべく、左手を見せないようにしてたけど、春樹にサラダを取り分けた時に、芽衣の目に止まったようだ。
「先週プロポーズしたんだ。俺が待ちきれなくて病室で」
ビール片手に春樹が唇を、持ち上げたのを見ながら、冬馬がビールを一気に飲み干すのが見えた。
「いいなぁ。春樹さんみたいな人が旦那さんになるなんて」
芽衣が、横目で冬馬に視線を向ける。
「俺の前でよく言えるな」
「あ、妬きもちやいてくれるんだ」
「ばーか、妬くかよ」
お酒も入っているからか、芽衣は頬を染めながら、冬馬に甘えるように、とろんとした目を向けている。
「おい、芽衣、あんま飲み過ぎんなよ」
既に、缶酎ハイの3本目を美味しそうに飲んでいる芽衣に、冬馬が小さくため息をついた。
「いいじゃん。潰れたら隣まで送ってね」
「そのへん転がしとくからな」
冬馬とキスをしたあと、春樹にキスをされて、プロポーズを受けた私を、冬馬はどう思ってるんだろう。
さっきから、二人のやり取りを見るのが、苦痛になってきた私は、俯いて、サラダを長い時間かけて食べている。
「明香、熱いから気をつけて」
春樹が、お鍋の具材をよそって、私の前に置いてくれた。
「ありがとう」
「先週倒れたばっかだからな、栄養つけなきゃな」
春樹が、私の髪をくしゃっと撫でた。
「春樹さんって本当優しいですよね、いつ結婚式挙げるんですか?」
「具体的な日取りは、まずは式場決めてからかな。それに結婚指輪も買いにいかなきゃな」
春樹が、こちらを見て微笑んだのを見て、私は頷いた。
「いいなぁ、指輪」
「芽衣ちゃんも、そのうち冬馬に買ってもらいなよ。うんと高いやつ」
「ガキに、指輪なんていらねぇだろ」
お鍋を、左手で突つきながら、冬馬がそっけなく答える。
「子供扱いやめてよね、それに、これでもお嬢様なんだから。おっきなダイヤモンドの付いた、うんと高いの期待してる」
「自分で言うな」
冬馬はそう言いながらも、芽衣さんに火傷させるのを気遣って、お鍋の具材をお皿によそうと芽衣さんの前にことりと置いた。
いつも私にそうしてくれてたように。