あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 薬の品ぞろえは他のドラッグストアより豊富だが、だからと言って化粧品や日用品などの品ぞろえが悪いわけではない。

「私、アスマモアプリ持ってます」

 ルンルンでスマートフォンを見せてくれた羽理(うり)の嬉しそうな表情に、大葉(たいよう)は思わず(可愛いな)と見惚れてしまって――。

「部長、聞いてます?」

 シートベルトも外さずにぼんやりしてしまって、羽理からキョトンとされてしまう。

 大葉(たいよう)は慌てて車を降りながら「そういえば……お前、今日は残業だったのか? だとしたら……その……仕事は大丈夫だったのか?」と上司らしい言葉を投げ掛けた。
 だが、その実、心の中では(もしや他の理由じゃあるまいな?)とソワソワしていたりもする。

「え? 何でですか?」

 コッペンにロックをかけながら羽理がこちらをじっと見つめてくるから、大葉(たいよう)は「ほら。待ち合わせ場所に来るの、お前も遅かったみたいだから」と会社駐車場での会話を思い出しながら問い掛けた。

「ああ……。仕事は早く終わったんですけどね……。倍相(ばいしょう)課長に捕まっちゃいまして」

 へへへ……と笑う羽理の手を、大葉(たいよう)は思わず掴んでいた。

「何されたんだ!」

「え? な、何もされてませんよ? ただ……」

 言って眉をしかめた羽理に、「手、痛いです」と抗議の声を上げられて、大葉(たいよう)は慌てて力を緩めた。

 だが、どうしても離してやることは出来なくて。
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