あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「だって……た、いよ……ぶちょぉ、が……」

「俺は誰にも《《貸与》》された覚えはない。もっとスムーズに呼べ」

「もぉ! 上司の下の名前を呼び捨てするのがどれだけハードル高いと思ってるんですかっ。意地悪ですか! ドSですかっ!」

「なっ。お、俺は極めて温厚だぞ? なぁ、う、……り。いつものお前ならそんなの楽々越えられるはずだろ。――ほ、ほら、遠慮せず越えて来い!」

 大葉(たいよう)は、自身も羽理(うり)のことを呼ぶのがしどろもどろなくせに、あくまでも羽理が「大葉(たいよう)」と呼ぶまで許してくれる気はないみたいで。

(どうしてこうなったの!)

 羽理は「うーーー」と(うな)り声を上げながら、先程の会話の中の敗因を必死に探る。
 だが、これと言って思いあたる節はなくて、早々に諦めた。

(ホント、部長は何をそんな、ムキになってるんでしょうね!?)

 代わりの心の中。
 盛大に大葉(たいよう)に不平不満をぶちまけた。


***


荒木(あらき)倍相(ばいしょう)からのディナーの誘い――荒木は「夕飯」と言ったけれど、絶対相手はディナーという感覚に違いない!――を断ったと言ったが、一度断られたくらいで倍相(ヤツ)が引き下がるとは思えん!)

 羽理(うり)倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)の誘惑に屈しなかったと言うのは大葉(たいよう)にとって物凄く喜ばしいことだったけれど、その反面、そう危機感を募らせた大葉(たいよう)だ。

倍相岳斗(あの男)は油断ならんからな)

 のほほんとしているように見えるけれど、あの若さで管理職になるくらいだ。一筋縄でいく男でないのは容易に推察できる。

(まぁ、それを言うと俺もか)

 岳斗(がくと)とは六つ違いだが、大葉(たいよう)も彼ぐらいの年齢の頃には課長職にいた。
 とはいえ、自分は優しくて話しかけやすいと評判の倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)とは違って、取っつきにくいことで有名な仏頂面(ぶっちょうづら)課長だったのだけれど。
< 119 / 539 >

この作品をシェア

pagetop