あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
***

「あのっ、手っ! このままだと商品の吟味が出来ません」

 買ったことのあるものを選ぶならまだしも、新手の何かを買うときは色味を見るためにテスターを手の甲へつけてみたりしたい。

 そう言うことをしないまでも、アレコレ手に取ろうと思ったら、片手だけは厳しいではないか。

 捕まえられたままの手を(かか)げただけで分かってもらえると思ったのに、目で訴えてみても一向に解放してくれる気配のない大葉(たいよう)に、羽理(うり)は仕方なくそう言わざるを得なくて。

 眉根を寄せて、指を絡ませられたままの手元を見詰めながらそう言ったら、大葉(たいよう)が慌てたように「あっ、あぁっ、すまんっ」とどこか名残(なごり)()しそうな様子でギュッとしていた手指を(ほど)いてくれた。

「あ、いえ。あの……むしろ有難うございます……?」

 何となくの流れ。
 眼前の大葉(たいよう)が少し気落ちして見えたから、『気になさらないで下さい』と言ったつもりが、何故か『有難う』になってしまって。

「――? それは……何に対する礼だ!?」

 大葉(たいよう)から至極まともな返しをされてしまった。

 手を解放してくれたことへの感謝か、はたまた歩くのが遅い自分を《《気遣って》》、大葉(たいよう)がずっと手を引いて歩いてくれたことへの謝辞か――。

 多分大葉(たいよう)としては後者のつもりに違いない。

 そう思った羽理は、
「えっと……どんくさい私がはぐれないよう、手を(つか)まえて歩いて下さったことに対して、……ですかね?」
 と自分としての最適解を選んだ。

 そうしながら――。

(もぉ、部長ったら普通につないで下さったんで大丈夫なのに……《《指先がんじがらめ》》とか。……どんだけ私のことはぐれやすいと思ってるのっ!)

 確かに羽理はどうしようもないほどの方向音痴ではあるけれど、実際はぐれたところでそんなに客でごった返しているわけでも、店舗がめちゃくちゃ広いわけでもない。

 いざとなれば携帯で連絡を取ることも出来るし、会えなくなんてならないはずだ。
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