あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「実際んトコ、俺にもよく分かんねーんだよ」

 客人というほど大仰なものではない身内ゆえの気軽さか。
 適当なマグカップに入れたコーヒーをローテーブルに置きながら本心を前置きすれば、「もぉ、たいちゃん、カップが色気なさ過ぎ」と言いながら、柚子(ゆず)がそれをひとくち口に含んだ。

「でも相変わらずたいちゃんの淹れてくれる珈琲は美味しいわね」

 つぶやいてから、「分からないってどういうことなの?」と本題に入った。

「まんまの意味だよ」

 言って、最初は自分が七階にある羽理(うり)のワンルームマンション脱衣所に飛ばされたことを語ったら、柚子が「何それ!」と瞳を見開いた。

 以後、風呂に入るタイミングが重なると、どうやら先にドアを開けた方が相手の風呂場前に飛ばされるらしいと説明して。

(そう言やぁ週末に検証実験しようって言って、結局まだしてねぇな)
 そう思った大葉(たいよう)だ。
(羽理はその話、覚えてっかな?)
 ふとそんなことを思って、脱衣所にいる羽理の気配に耳をすませば、まだドライヤーの音が聞こえている。
 羽理は結構髪の毛が長いし、時間がかかるらしい。

 もう一人の当事者――羽理の援護射撃なしに孤立無援で語るには、にわかに信じがたい話だよな?と思って、(さて、どうしたもんか……)と次の一手に考えを巡らせた大葉(たいよう)だったのだが。
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