あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 羽理(うり)は春風のような岳斗(がくと)の笑顔と、北風のようにムスッと不機嫌そうな大葉(たいよう)の顔とを交互に見比べて。

 そこでふと思い出したように「あ……」とつぶやくと、
「そう言えば倍相(ばいしょう)課長! あの受付けで見た綺麗な女性(ひと)! (たい)……じゃなくて……えっと……や、屋久蓑(やくみの)部長のお姉さんだったんです! 《《課長が》》心配なさったような〝カノジョさん〟とかじゃありませんでした!」
 そう打ち明けたのだけれど。

 それを聞いた大葉(たいよう)が、一瞬だけ《《岳斗に》》鋭い視線を投げ掛けてから何か言おうとして。
 でもあえて気持ちを切り替えるみたいに視線を羽理へ戻すと、不機嫌そうに「おい、羽理。俺の呼び方」と異議申し立てをしてきた。

 羽理は大葉(たいよう)の態度に違和感を覚えたのだけれど、すぐにそんな大葉(たいよう)のセリフに重ねるようにして、
「わざわざ言い直さなくても大丈夫ですよ?」
 クスッと笑った岳斗から「けど……会社では気を付けてくださいね?」と指摘されて、小さな引っ掛かりがポンッと吹っ飛んで行ってしまう。

「あ、はい! ……あ、有難う、ござい、ます……?」

 今まで散々岳斗の前でも無意識に〝大葉(たいよう)〟呼びをしていた羽理だったけれど、改めてその呼び方を肯定されると何だか照れてしまうではないか。

 お礼を言うのも違うよね?と思いながらも、つい「有難う」を言ってしまった。

「何で礼……」

 わざわざ掘り下げなくてもいいのに、すかさず大葉(たいよう)が突っ込みを入れてきて、ついでのように「ところで倍相(ばいしょう)……」と、こちらはとうとう敬称も役職名もなしで呼び掛ける。
< 232 / 539 >

この作品をシェア

pagetop