あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
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 美住(みすみ)杏子(あんず)は、今年三十歳になる。
 杏子本人はそんなに結婚願望が強い方ではないのだが、美住家(みすみけ)の一人娘ということもあって、父・美住(みすみ)大地(だいち)は何としても杏子をどこかへ(とつ)がせて、あわよくば孫の顔を見たいと望んでいるらしい。

 小さい頃に母親を亡くして、男手ひとつで育てられたと言うのも大きいのかも知れない。

 父親はとにかく杏子に甘々で、下手をするととっても過保護で若干暴走気味。

 もしも自分に何かがあったら杏子が一人ぼっちになってしまう! と、娘に伴侶を見つけることだけはどうしても譲れない喫緊(きっきん)の課題だと豪語(ごうご)してはばからない。

 杏子は『そんなに心配しなくても大丈夫だよ? 私一人でも生きていけるよ?』とアピールしているのだが、肝心の父親がそう思ってくれないのだからどうにも厄介なのだ。

 これまでにも何度も何度も大地から見合い話を持ってこられては、うんざりしながらそれを反故(ほご)にしてきた杏子だったのだけれど。さすがに二十代もあとわずかともなれば、大地の方にも焦りが生じてきたらしい。

 いくら童顔で幼児体形。メリハリボディとは程遠い身体つきのせいで年齢より余裕で五つくらいは若く見られるといっても、限度というものがある。


「杏子、お父さんは諦めないからな!?」

 そう宣言されて、「次にセッティングする相手とは何が何でも会ってもらう!」と言い渡されてしまった杏子は、つい苦し紛れ。初恋の相手の名前を出してしまったのだ。
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