あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「お待たせ」
 言いながら買ってきたばかりのおやつを切り開けて、中から小袋をひとつ取り出すと、封を切ってちょっとだけ中身を絞り出す。

 それを顔の前に持って行くと猫は満足そうにぺろぺろと舐めた。

(可愛い……)

 貫禄(かんろく)がある猫だ。顔もどちらかと言えば不細工なんだけど、どこか愛嬌があって憎めない。

 杏子(あんず)は猫の姿を眺めていると、少しだけ気持ちが穏やかになっていくのを感じた。

「猫ちゃん、私ね……失恋しちゃったの……。相手は長いこと会ってなかった初恋の人なんだけどね、色々あって再会したらすっごくカッコよくなってて驚いちゃった……。彼女さんがうらやましいよぅ。もし……私の方が先に出会ってたらって考えても仕方のないこと思っちゃう……」

 周りに誰もいないのをいいことに、目の前の猫に心のうちを吐露してみる。

 彼女さんのことは遠巻きにしか見られなかったけれど、土井さんが自分のことをたいくんの好みだと言ったのが少しだけ分かった気がした。
 杏子(あんず)にとってコンプレックスな、お胸が小さなお子様体形も、きっとあの彼女さんとなら気持ちを共有できる。顔立ちも、どこか自分と似て感じられたのは二人ともちょっと釣り気味のアーモンドアイだからかも知れない。

 性格までは分からないけれど……人は見た目が九割で、中身はそのあと好きになると聞いたことがある。

 だとしたら、出会う順番が違えば、大葉(かれ)に抱き締めてもらえていたのは自分だったかもしれない。
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