あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 二人してほとんど無意識。口々にそう言ったら、「気付かれてしもうたか」とおばあさんが悪びれもせずにつぶやく。
 元々おばあさんとふくよかな三毛猫(ネコちゃん)は同一人物(?)ではないかと思っていた大葉(たいよう)羽理(うり)だったけれど、こんな風に本人(猫)から認められたのは初めてで、なんだか気後れしてしまった。
「なぁ、それ……俺たちにバレてもよかったのか?」
 それで思わず気遣うように尋ねた大葉(たいよう)だったのだけれど、「アンタらはわしらに危害は加えんじゃろ? じゃけ、()かろぉ思うてな」とふくふくの手で肩をポンポンと叩かれた。
 それを見た鈴桃(すもも)が、大葉(たいよう)の腕の中でキャッキャ笑って、その声で目を覚ました頼地(らいち)が、羽理に抱かれたまま、「あー」と言いながらおばあさんへ手を伸ばす。
 そんな頼地(らいち)の手へ横から割り込むみたいにやんわり触れながら、若い巫女がにっこり笑った。
「《《ブンレイ》》のアタシをあなた方の家に《《仮住まい》》させるぐらいには、《《うちの神さん》》はお二人を信頼(しんにゃい)しちょるニャ」
 サラリととんでもないことを言われて、羽理の「えっ?」という声と、大葉(たいよう)の「はっ?」という声が重なる。
「……うちの、神さん?」
「ブンレイの……アタシ?」
 大葉(たいよう)の質問には「わし、普段は奥の本殿(ほんでん)でのんびり(まつ)られちょるんニャがの、最近ちぃーと忙し過ぎてしんどいけ、《《ワケミタマ》》して御利益(ごりやく)がある神社を増やすことにしたんニャ」とおばあさんが答えて、羽理の疑問には若い巫女さんが、「この姿では初めまして、オクラです。成猫に(大きゅう)なって、ニャっと人間に化けられるようにニャりました。もうちぃーとしたら《《ひとり立ち》》します」と左手首に巻き付けた赤色のリボンと鈴を見せながら返答してくれる。
 オクラと名乗った巫女が手を振ると、耳馴染んだ鈴の()がチリンチリンと空気を震わせた。
 その音を聴きながら、(猫にはもっと兄弟姉妹がいるのでは?)とふと思った羽理だったが、まるでその心を読んだみたいに「猫みたいに見えちょるんじゃろうが、わしら、厳密には猫じゃニャいけぇの。その子は若い容姿(なり)をしちょるが《《わしの分身》》ニャ」とおばあさんが答えてくれて、オクラがコクコクうなずく。
「アタシはそこの神さんの〝ワケミタマ〟ニャ」
 大葉(たいよう)たちにはよく分からない単語を並べるのにはお構いなし。キュウリがオクラに『遊ぼう!』と尻尾を振って誘いかけると、オクラもソワソワと神主姿の猫神様を振り返った。
「あの、アタシ……」
「ええよ、ええよ。楽しみは大事ニャけ。行くがええよ。たまには気晴らしもせんとニャ」
 ニヤリと笑った猫神様(おばあさん)を見て、(確かにこの神様(かみさん)も、よく猫の姿で境内(けいだい)をうろついてるもんな?)と思ってしまった大葉(たいよう)である。

 オクラはそんな猫神様の言葉にキラキラと目を輝かせると、大葉(たいよう)たちに「アタシ、一足お先にお家へ帰っちょくけん、ニャるべく(はよ)ぉ、キュウリちゃん連れて帰ってきてね?」と言うなりスゥーッと霞んで消えてしまった。

 それを()の当たりにした大葉(たいよう)と羽理が、思わず「オクラ!?」と呼びかけた時には後の祭り――。
 巫女姿のオクラは蒸気のように姿をかき消した後だった。


***


 そういうことがあって、不思議な存在を信じざるを得なくなった大葉(たいよう)は、ふと思い立って神様について色々と調べてみることにしたのだ。

 初宮参りの際、オクラの口から「ブンレイ」だの「ワケミタマ」だの、わけの分からない単語がたくさん出てきたのが気持ち悪かったというのもあったし、居間猫(いまねこ)神社にはすでにおばあさんの姿をした猫神様が(たてまつ)られている。だとしたら《《うちの》》オクラはどういう扱いになるんだろう? と気になったからというのもある。

「ブンレイって……もしかしてこれか?」
 ネットで調べてみたら、どうやら神様には分霊(ぶんれい)(わけみたま)というのがあって、本社の祭神を他所(よそ)(まつ)る際に神様の神霊(しんれい)霊験(ちから))を分けられるらしい。
 分けた側も分けられた側も、御神力は同等。そのようにして、同じ神を祀った神社が全国各地に本社・分社といった形で複数存在出来るようになるらしい。

「なぁオクラ、お前、どっかのお(やしろ)で新しく祀られるのか?」
 大葉(たいよう)がいくら聞いてみても、あれ以来〝飼い猫〟を貫いているオクラは「ニャ?」と首を傾げるばかりで、何も答えてはくれなかった。

 でも――。
 なんとなく大葉(たいよう)は思うのだ。
 いつか何かのタイミングでオクラはふっと自分たちの前から姿を消すのではないか? と。
 そうしてどこかの神社で『居間猫(いまねこ)神社』の分社として、新たな縁結びの神様として祀られる日がくるに違いない。
 そういうのを繰り返して、居間猫神社は繁栄していくんだろう。


***


 あなたの町のどこかの神社の裏手に、猫みたいなアーモンドアイをした、不思議な喋り方をする売り子さんがいる御守(おまもり)の露店はありませんか?

『あニャたに良縁引き寄せます♥』
 そんな文言の書かれた神符(しんぷ)を並べた神社を見かけたら、もしかしたらそこは居間猫(いまねこ)神社の分社かもしれません。

 もし見かけたら是非、並べられた御守を手に取ってみてください。

 そうすれば、あなたにもきっと。とっても不思議でちょっぴり(?)恥ずかしい、だけどすっごくすっごく素敵なご縁が訪れるはず。

 あニャたにも、大葉(たいよう)羽理(うり)たちのような、素敵なご縁がありますように――♥


 END
(執筆期間:2022/06/25〜2025/01/27)
※最後までお読みいただき、有難うございました!
 宜しければファン限定公開の『とり服』短編集もお読みいただけたら幸いです。(鷹槻(たかつき)れん)
< 539 / 539 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:18

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
28歳の誕生日。 折よく週末と誕生日が重なったその日。 付き合って5年の彼氏・横野 博視(よこの ひろし)から高級ホテルへ呼び出された玉木 天莉(たまき あまり)は、「もしかしてプロポーズ?」と期待したのだけれど。 告げられた言葉は「好きな子が出来た。悪いけど別れて欲しい」と言うものだった――。 翌週、傷心の天莉は、フラフラになりながらも何とか仕事をこなしたのだけれど体調不良で倒れてしまい。 そんな天莉を介抱してくれたのは、常務の高嶺 尽(たかみね じん)だった。 「キミをないがしろにした奴らなんて、俺と一緒になって見返してやればいい」 利害の一致による交際を申し込まれた崖っぷちアラサー女子の、形勢逆転ラブストーリー♥ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪(@yukiyukisnow7)さまに依頼しました。今回はピーナッツ姫(うちの娘)の抽象画を背景に使用して頂きました。  ※作品シェア以外での無断転載など固くお断りします。 --------------------- 執筆期間:2023/02/02-2023/10/15
オトメは温和に愛されたい

総文字数/289,526

恋愛(オフィスラブ)433ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
鳥飼 音芽(とりかいおとめ)は隣に住む幼なじみの霧島 温和(きりしまはるまさ)が大好き。 でも温和は小さい頃からとても意地悪でつれなくて。 幼なじみが大好きな鈍感M女性と、彼女が好きだけど素直になれないひねくれS男性のお話です。 小さい頃からお隣同士な幼なじみのふたりの、じれじれ両片想い、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! ※章ごとに一気上げしています。 ※艶めいたシーンがある章には「*」を付けています。 ○ 表紙絵は市瀬雪さま(@yukiyukisnow7)に依頼しました。   (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
それぞれの幸せ

総文字数/112,789

恋愛(キケン・ダーク)70ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
千崎雄二(48)は、現在『葛西組』の2次団体『雄相会』の会長を務める男。 十数年前、『葛西組』組長・葛西了道の意向により、今は亡き了道の右腕 葛城の娘・雪絵(40)を妻に迎えた。本来なら幼馴染で恋人だった桐生百合香(42)と添い遂げるつもりだったが、その道は閉ざされた。 雪絵は夫を深く愛し、家庭を守ることに全てを懸けてきた。 一方の百合香もまた、影の立場に甘んじながら雄二を支え続けてきた。 義理と筋、愛と執念――それぞれが譲れぬ想いを抱え、歳月は静かに積み重なる。 だが、ある真実を雪絵が知ったとき、彼女の夫への愛は揺らぎ、憎しみへと姿を変える。 義理に縛られた結婚と、影に甘んじた恋。 2人の女と1人の男が辿り着くのは、失われた過去ではなく――「それぞれの幸せ」。 ※『組カノ』、千崎雄二と、彼に翻弄された2人の女性を描いたスピンオフ作品です。本作のみでも分かるように書くつもりですが、『組カノ』本編および『組カノ』短編集『愛も憎も、業の理』、『結婚式裏話―それぞれの祝福―』内の②桐生百合香・④葛西了道をお読みいただいてからの方がよりお楽しみ頂けると思いますm(_ _)m

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop