あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 羽理(うり)は新卒で今の会社――土恵(つちけい)商事に入社して、財務部経理課に配属されて以来、密かに上司である倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)に絶賛片思い中なのだ。

 とは言え、あくまでも〝観賞用〟として。

(推しは遠目に見るに限る! お手つき厳禁!)

 下手に関わりが深くなって、せっかく自分の妄想の中で長年かけて育て上げてきた完璧な人物像が崩れてしまっては一大事。

(お付き合いするなら職場の人は避けたい!)

 大学三年生の頃、同じ学部の同級生と付き合った結果、破局してから卒業するまでの約一年間が本当に辛かったのを覚えている羽理だ。

 浮気されて傷つけられたのは自分だったはずなのに、いつの間にか羽理が彼氏を(ないがし)ろにしたのが悪いと、情報をねじ曲げられていたから。

(あんな思いはもう沢山!)

 逃げ場のない人間関係の中で、恋愛はしたくない。

 憧れと恋慕は別物だもの。

 羽理は漠然とだけどそんなことを思っている。

 そう。羽理はその辺をしっかり考慮して、一線を引いて生活が出来る偉い社会人なのだ。

 無論、上司をおかずにエッチな恋愛小説を書いている時点で問題ありだと言うことを、しっかりきっちり丁寧に、美しい包装紙で(くる)んで棚上げした場合、の話ではあるけれども。


***


「ん〜! 疲れた!」

 今日は半日で一万字ちょっと書けた。

 羽理(うり)の投稿しているサイトは一頁が大体八〇〇字前後なので、向こう十日間ちょっとストックが出来たことになる。

 基本自転車操業常習者の羽理にとって、一週間以上もゆとりが出来たのはとても大きい。

 もちろん、書きっぱなしというわけには行かないから少し時間を置いて読み直して推敲(すいこう)作業をしなくてはいけないけれど、それにしたって下地があれば全然違う。
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