あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
10.夕方は予定をあけておくように!
 羽理(うり)が行くのは無理だと分かっても、上司に(おご)ってもらうモード全開になっていた法忍(ほうにん)仁子(じんこ)は諦めなかった。

「羽理とはまた後日出直せばいいじゃないですかぁ〜。私はもう、課長に提案されたお好み焼き屋さんの口になってます!」
 なんて具合。

 倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)は、仁子の圧に負ける形で、()き立てられるようにしてランチへ駆り出されてしまう。

(おう! 行ってこい、行ってこい!)

 仁子の強引さに心の中で拍手喝采(かっさい)を浴びせつつ、そんな部下二人を愛しの羽理とともに見送った屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)だったのだけれど。


***


倍相(ばいしょう)課長って、のほほんとしてるようで、実は案外鋭いところがありますよねー」

 ネギがたっぷり入った、甘めの卵焼きを摘み上げながら、羽理(うり)がほぅっと吐息を落としながらポツンとつぶやくから。
 先ほどのことを嫌でも思い出させられてしまった大葉(たいよう)だ。

 法忍(ほうにん)仁子(じんこ)と二人、財務経理課を出ていくとき、倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)がふと立ち止まって。
「あ、そう言えば……」
 まるで《《ふんわり》》とつい今し方気が付いた、と言った(てい)で羽理を振り返ったのだ。

「よく考えてみたら荒木(あらき)さん、今日は裸男さんと彼女さんのお宅からの出社でしたよねー? ……ってことは、そのお弁当は荒木さんが作ったんじゃなくて、裸男さんか、彼の彼女さんの手作りなんじゃないですか?」
 と――。

 悔しいけれど大葉(たいよう)は、その言葉にぐうの音も出なかったのだ。

「あ、は、はい……。実は裸男さんが自分のを作るついでに作ってくれました」

 自分が作ったわけではないのは確かだったので、羽理が思わずその言葉を肯定して。

 仁子が嬉し気にポン!と手を打った。
< 98 / 133 >

この作品をシェア

pagetop