深まり愛~彼は一途な想いを貫く~
「娘を持つ父親って、切ないな」
「俺たちも今から覚悟しておく必要があるな」
「どんな男がかわいい我が娘を奪っていくんだろ……」
「どんな男でも許したくないよね」

兄たちは自分たちの娘の将来を思い浮かべ、沈んだ。まだやっと歩きだしたばかりの子なのに、気が早すぎる。

「お兄ちゃんたち、暗いよ」
「さやか……お前にはわからないだろ……今はこんなにかわいくて、パパーって抱きついてくるんだぞ」

郁人兄ちゃんはスマホで撮影した動画を見せてきた。そこには「パパ」と両手をあげるかわいい姪が映っていた。

恭也が食い入るように見る。

「うわー、かわいいですね!」
「だろ? 世界一かわいいんだよ」

娘をかわいいと言われて喜ぶ郁人兄ちゃんの横で、明人兄ちゃんもスマホを取り出した。

「世界一かわいいのは、うちの娘だ。成瀬くん、うちの子の方がかわいいだろ?」

似た動画を見せられ、恭也は「はい」と笑みを浮かべる。

「この子もかわいいですね!」
「世界一かわいいのは、どっちに見える?」
「えっ?」

兄たちは娘が誕生してから、何度も「うちの子の方がかわいい」と競い合っていた。その争いに巻き込まれる人は、少なくない。
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