フラグを全力で育てる系女子の恋愛事情〜なぜか溺愛されてますが〜
大満足の昼食を済ませた私達は、街中をウロウロしてウィンドウショッピング。

藤君は終始優しくて、話も豊富で一緒にいて無言の時間が全然なくて。

私のあんまり中身のない話もちゃんと聞いてくれて、藤君の話もいっぱい聞いた。

今思えば失礼な話なんだけど、藤君とは関わることもないと思ってた。

こうやって話すようになって初めて、色んな藤君を知った。優しくて、穏やかで、ちょっと意地悪で、でもリードが上手で。

恋愛したいとか言う割に大した女らしさもない私を、ちゃんと女の子扱いしてくれる。

思わず目を逸らしたくなるくらいに、優しい目線を私にくれる。

リアルな男子を知らなかった私が、ちゃんと恋愛対象として向き合った初めての男の子。

藤君と居ると、自分が自分じゃないみたいだ。

私はそれが、少し怖い。




「今日は、ホントにありがとう」

「いや俺こそ、めっちゃ楽しかった」

夕方を過ぎても、藤君は崩れない。朝のキラキラをそのまま持続してる凄い人だ。

「相崎さん」

「はい」

「また、会ってくれる?二人で」

藤君の瞳に少しだけ灯った熱っぽい色。同時に、いつもの藤君らしくない自信なさげな表情。

そのギャップがまた、私の心臓を揺さぶる。

「あの…ごめん藤君」

「…」

「もう、二人では会えない」

藤君が一瞬眉を寄せたのが分かって、胸がギュウッと絞られる。

「藤君のことは人として好きだし、凄くかっこいいって思うし、一緒にいるとドキドキしてホントに楽しい」

「…うん」

「でも私、正直まだピンとこなくて。リアルな男の子とこうやって隣を歩いて、同じ時間を共有してくってことが」

恋愛には人一倍憧れる私は、ただそれだけ。

あいまいな感情のまま、これ以上藤君の時間はもらえない。

いつだったか、福間さんの言っていた言葉が頭をよぎる。

ーー付き合ってみて、それから好きになってもいいんじゃね?

そんなこと、わたしには出来ない。

「だから、ごめんなさい」

「…そっか」

いつもよりずっとトーンの落ちた声色。とっさにさっきの自分の言葉を撤回したい衝動に駆られて、そんな自分に嫌気がさした。

「あんまりしつこくするのも良くないし、もう誘うのはやめる」

「…うん」

「あ、でも教室とかでは普通にしてくれると嬉しいかな。相崎さんと気まずくなりたいわけじゃないし、またみんなで一香さんのとこにクレープ食べに行こ」

藤君、無理してる。

だけどそれ以上、私はなにも言えなかった。

だって私は、藤君のことを好きじゃない。好きじゃないなら、思わせぶりな態度は取らない方がいい。

「じゃあ、また学校で」

それはもう、夏休みには会えないってこと。

自分で言ったくせに、胸がえぐられたように痛んだ。
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