可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
魔物の名はシャドウ
 毎日、朝・昼・下校前にハインツ先生の魔物チェックのため、至近距離で見つめ合うことになっている。

 鼻息がかかってしまう距離だから息を止めるようにしているのだけど、今日は違っていた。
 口元がにやにやしてしまうのが止められなくて、ついにはブフッと吹き出してしまった。

 どうしよう、ハインツ先生の麗しいお顔に唾が飛んでしまったかもしれない。
「し、失礼しました」

「随分楽しそうだね。きみも、中の魔物も」

 そうだ、シャドウが先に笑い始めたものだから、わたしも我慢できなかったのだ。

 シャドウとは、わたしが勝手につけた魔物の呼び名だ。
 わたし以外の人は見えないようだが、光に当たるとできる影に魔物の姿が一緒に浮かび上がるようになった。
 最初は肩にちょこんと乗ったただの球体のようだった。
 次第にそこに三角の耳が見えるようになって、尻尾も生えてきて、今では猫のような姿になっている。
 だから、シャドウと名付けた。
 
 父からは、情が移るようなことを一切するなと言われているが、わたしとシャドウは体も思考も共有しているのだから、それは無理というものだ。
 だったらむしろ、この子と仲良くなって楽しく暮らした方がいいだろうとわたしは考えている。

< 15 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop