可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
 一晩中そんなことを考え続けて悶々としていたために、翌朝ハインツ先生に瞳をのぞかれた時に妙に意識しすぎて目を逸らしてしまった。

「どうした。何だか疲れているように見えるけど、シャドウと何かあったのか?」

 シャドウ?
 何言ってんの、このドキドキの原因は…。
「ハインツ先生のせいですから!」

 当時のわたしがハインツ先生に恋心を抱いていたのだとしたら、またこの人に好意を寄せてしまうのはもう不可抗力だろう。
 今までどうして平気だったんだろうとわからなくなるほどにハインツ先生と目を合わせることができない。

 突然わたしにキレられて戸惑う様子のハインツ先生がすぐ近くにいて、そんな表情すらも眩しく見えて思わず立ち上がってしまった。

「わかった。私のせいだと言うのならそれでも構わないから、昨晩何があったのか話してくれないか」
 ハインツ先生も椅子から立ち上がり、迫ってくる。
 
 声色は優しいけれど、深紫の瞳には逃がさないぞという決意が見え隠れしているから困る。
 
 3年半前にわたしがあなたに対して行っていたストーカー行為の件でお伺いしたいことが…なんて言えるはずもない。
 それにあの手帳が机の奥に隠すようにしまわれていたということは、黒歴史だと思っていたにちがいないのだから、そのことをハインツ先生にバラしたら22歳のわたしに恨まれそうだ。


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