原田くんの赤信号
 結局、回想しても思い出せぬ原田くんとの約束。その部分だけ、わたしは記憶喪失でもしているのだろうか。


「結果報告します!原田くんは、福井くんの家を教えてくれる優しい人ではありませんでした!」

 美希ちゃんのベッドにボンッと身を投げたわたしに、彼女はキャハハと高い音階で笑った。

「え、なんで!福井斗真の家知ってるのに?そして瑠美の気持ちも知ってるのに?それなのに教えてくれないとか、冷たすぎて笑えるんだけどっ!」
「なに言ってんのっ、全然笑えないよお!」

 わたしはごろんと寝返りをうつ。
 見上げる天井、そこに再生されるのは──

 もう俺、どうすりゃいいのかわかんねえよっ!

 そう言った、原田くんの辛そうな顔。

 わたしも憂鬱になってしまう。

「むしろね、『二月十四日に渡さないで他の日にしろよ』だなんて言われた」

 それでも気丈に振る舞いたくて、そう言えば。

「まあ、それでもいいんじゃない?チョコなんて学校で渡せるし」

 と、美希ちゃんが原田くんの発言に似たようなことを言ってきたから、わたしのプライドが表に出る。

「でもそれって、バレンタインデー当日じゃないじゃん……」
「そうだよ。でも、一日くらいどうってことないじゃん」
「絶対やだ……」
「え」
「一日前も一日遅れも絶対いやだっ。わたしはバレンタインデー当日に、福井くんにチョコをあげたいっ!」

 頑固者っ、と今度の美希ちゃんは低い声を吐くが、すぐに切り替え、案を出してくれた。

「それならわたしが福井斗真に直接聞いてあげようか?瑠美は自分で聞くの、恥ずかしいんでしょ?」

 小学生からのお友だち。
 美希ちゃんはわたしのことをわかっている。

「え、いいの?」
「うん。任せてっ」
「超嬉しい!!」

 度胸も勇気もないわたしの友だちを長いことやってくれているだけあって、美希ちゃんの決断は早かった。

「ありがとう、美希ちゃん」

 こうしてこの任務は、頼れる彼女に託された。
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