先生、優しくしないで
「有紗はパーティー、行くの?」

「はい。ローズに「行かなきゃ損する」と言われたので」

「ダンス、踊る相手は決まってる?」

「いえ、それはまだ決まっていません」

もしも、踊る相手を選べるのならば……。赤い顔をしながら有紗が思っていると、教室に着いた。オレンジに染まる教室には誰もいない。

ノートを生徒一人ひとりの机の上に置き、最後にウィリアムが有紗の分のノートを「どうぞ」と手渡してくる。それを有紗が受け取ろうとした刹那、ウィリアムが言った。

「よかったら、パーティーで僕と踊ってくれませんか?」

有紗の思考が一瞬停止する。言葉の意味を理解した時、最初に込み上げてきたものは嬉しさだった。ウィリアムに対する想いは、有紗の心の奥に隠れている。嬉しくて、舞い上がってしまいそうだった。

だがすぐに、脳はローズから言われた言葉を思い出す。そう、この気持ちは捨てなくてはならないのだ。だが、ウィリアムが近付いて来てしまっては、意味がない。

(どうして、私の決意を無駄にさせようとするんですか?)
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