先生、優しくしないで
並んで歩くーーーのではなく、有紗がウィリアムの少し後ろを歩きながら教室を目指す。彼の華やかな顔を見なければ、この胸の高鳴りも少しはマシになるのではと有紗は思ったのだ。

「そういえば、もうすぐ創立記念パーティーの日だね」

ウィリアムが口を開き、有紗も「そうですね」と返す。夕焼けがスーツを着こなしたウィリアムの背中を照らし、背中しか目にしていないというのに、有紗は頬を赤く染めていく。

創立記念パーティーとは、この高校で毎年創立記念日に開かれているパーティーのことだ。タキシードやドレスを着用し、男女がペアでダンスを踊るのが恒例となっている。ダンスを踊った男女は結ばれる、というベタな伝説も生徒たちの間では飛び交っていた。

「ダンスの授業もあって、大変じゃない？」

「はい。ワルツなんて、人生で踊ったことなんて一度もありませんから」

ウィリアムの言葉に、有紗は淡々と話すように意識しながら返す。ウィリアムの質問は、創立記念パーティーのことばかりだ。
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